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広島地方裁判所 昭和33年(行)19号 判決

広島市左官町二五番地

原告

梶川博

右訴訟代理人弁護士

三浦強一

市水王町五五一番地の二

被告

広島西税務署長

小山武

指定代理人 森川憲明

米沢久雄

田原広

中本兼三

清水福民

右当事者間の昭和三三年(行)第一九号贈与税賦課に対する再審査処分取消請求事件について、当裁判所は昭和三七年五月二一日終結した口頭弁論に基き、次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告が昭和三三年三月二九日原告に対してなした昭和三二年度分贈与税の決定処分を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として次のように述べた。

被告は、昭和三三年三月二九日、原告が昭和三二年七月二四日訴外春木小夜子からの贈与により別紙目録記載の土地を取得したものとし、原告に対して、昭和三二年度分贈与税として課税価格を七七五、五〇〇円、税額を一三三、八七五円とする旨の決定処分の通知をしたので、原告が、同年四月一六日、被告に対して再調査の請求をなしたところ、被告は、同年五月一七日、右再調査の請求を棄却する決定の通知をし、原告が、更に、同年六月三日、広島国税局長に対して審査の請求をしたところ、同国税局長は、同年九月二六日、右審査の請求を棄却する旨の決定をした。

しかしながら、原告が本件土地の所有権を取得した原因は、形式上は贈与となつているが、実質上は有償取得である。即ち、訴外春木小夜子(昭和八年五月三〇日生)は原告の妻信子の実妹であるところ、昭和二〇年八月六日広島市において空襲で父母を失い孤児となつたので、その後原告において引きとり養育し中学校を卒業させて現在に至つている。その間昭和二一年七月一日より昭和三二年六月末日までに原告が同訴外人のために負担した既往支出は、(イ)養育費として最低一カ月二、〇〇〇円を基礎として計算した一一カ年分二六四、〇〇〇円、(2)昭和二五年度以降の固定資産税代払金六四、一二〇円、(ハ)墓地及び本件土地整地費代払金一二、〇〇〇円の合計三四〇、一二〇円であり、又昭和三二年七月以降原告が同訴外人のために負担すべき予定支出は、(イ)昭和三七年六月末日まで同居するものと推定し生計費として一カ月三、〇〇〇円を基礎として計算した五カ年分一八〇、〇〇〇円、(ロ)婚嫁費として日常の主要衣類調達等の最低額三〇〇、〇〇〇円、(ハ)昭和三七年六月末日までの固定資産税代納付推定額七〇、〇〇〇円の合計五五〇、〇〇〇円である。そして、原告は、昭和三二年六月二五日被告との合意により、前記出費総計八九〇、一二〇円の対価として本件土地の所有権を取得し、同年七月二四日当事者間で了解の上形式上贈与を原因として所有権取得登記をしたものである。しかるに、これと異なる認定に基づいてなされた本件贈与税の決定処分は違法である。そこで、原告は、被告に対して、右決定処分の取消を求めるため、本訴請求に及んだのである。

被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として次のように述べた。

原告主張事実の中、原告主張の日時、被告が原告に対してその主張通りの贈与税の決定通知をなした事実、その主張の各日時、原告が被告に対して再調査の請求をし、被告が右再調査の請求を棄却する決定の通知をし、原告が更に広島国税局長に対して審査の請求をし、同国税局長が右審査の請求を棄却する決定をした事実及び原告が右訴外人をその孤児となつた後養育している事実は認めるが、原告が本件土地を有償取得したとの主張事実は否認する。原告は昭和三二年六月二四日、訴外春木小夜子からの贈与により別紙目録記載の土地を取得し、同年七月二四日、その旨の所有権取得登記を経ているのであり、本件贈与税の決定は相続税法第三五条第二項に基づきなされた適法な処分である。

従つて、原告の本訴請求は失当である。証拠として、原告訴訟代理人は、証人春木小夜子の証言及び原告本人尋問の結果を援用し、乙号各証の成立を認めると述べ、

被告指定代理人は、乙第一号証から第八号証まで、第九号証の一、二及び第一〇号証を提出し、証人上甲広一、同岡林弘志及び同岩本茂の各証言を援用すると述べた。

理由

被告が、昭和三三年三月二九日、原告が昭和三二年七月二四日訴外春木小夜子からの贈与により別紙目録記載の土地を取得したものとし、原告に対して、昭和三二年分度贈与税として課税価格を七七五、五〇〇円、税額を一三三、八七五円とする旨の決定処分の通知をしたこと、原告が、同年四月一六日、被告に対して再調査の請求をしたところ、被告が、同年五月一七日、右再調査の請求を棄却する決定の通知をし、原告が、更に、同年六月三日、広島国税局長に対して審査の請求をしたところ、同国税局長が、同年九月二六日、右審査の請求を棄却する旨の決定をしたことは、当事者間に争がない。

被告のなした右決定処分の適否について判断する。

成立に争のない乙第一号証から第五号証まで、証人春木小夜子の証言によれば、春木小夜子は、昭和三二年六月二五日頃、原告とその妻である姉の信子から、昭和二〇年八月六日の空襲で父母と死別以来、多年にわたつて同女を養育して来たことを理由に、同女所有の右土地を原告に譲渡することを迫られたこと、しかし、同女は、原告に養育を受けては来たもののそのために、どうして右土地を原告に譲渡しなければならないものと考えなかつたが、強いて反対するほどの気持もなかつたので、これを承諾したこと、そして、昭和三二年七月二四日、右土地について、原告のために、右の贈与を原因とする所有権移転登記手続のなされたことが認められる。右の事実によれば、春木小夜子は、単純に原告に右土地を移転する意思に出たものであつて、原告が同女から贈与によつて右土地を取得したことを認定し得る。前記証人の証言によれば、原告が右土地の譲渡前に、春木小夜子に対して、右土地の見積価格と養育費等の差額として現金一〇〇、〇〇〇円を交付したことはうかがわれるけれども、それだけのことから直ちに右の認定をくつがえすには足らず、原告本人尋問の結果のうち右の認定に反する部分は信用できないし、他に反対の証拠が存在しない。

次に、成立に争いない乙第九号証の二、証人上甲広一の証言を総合すると、本件土地の価額は当時七七五、五〇〇円であつたことが認められるから、これに対する課税価格は七七五、五〇〇円、贈与税額は一三三、八七五円であることが明らかである。そうしてみると、被告のなした本件決定処分は適法であるといわねばならない。結局原告の請求は、理由のないことが明白であるから棄却を免れない。

よつて、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 原田博司 裁判官 浜田沿 裁判官 武波保男)

目録

広島市左官町二五番地の一

宅地 一八坪七合八勺

同 町二五番地の三

宅地 一坪六合

同 市鷹匠町五番地の五

宅地 五〇坪六合六勺

同 町五番地の六

宅地 一坪参合四勺

同 町一〇二番地の二

宅地 八合

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